2013年02月16日

経済思想 八木紀一郎(9)

八木紀一郎の「経済思想」、第8章 巨大組織の時代-独占と組織の経済学をまとめていきます。
本書も残るところ2章となり、内容がだんだんと現在に近づいてきました。
そのぶん現在に直接つながるような思想、思考が出てきて幾分か理解しやすかもしれません。ただ、過去の流れを忘れてしまうと薄っぺらな理解になってしまうかもしれませんので、このあたりでもう一度過去の記事を見返してみるのもいいかもしれませんね。

この本に関するほかの記事は経済思想-八木紀一郎のタグを参照ください。
*もちろん、内容の全てを紹介するわけではありません。本を持っていないかたは多少の前提知識を要求する書き方をいたしますが、ご了承ください。

経済学入門シリーズ 経済思想<第2版> (日経文庫)

新品価格
¥966から
(2012/12/18 14:09時点)



概要
(1)大企業と国家
・レッセ・フェールの掛け声とともに生まれた古典派の経済学は、国家的規制と産業における独占を排撃しました。

・しかし、二十世紀の経済は、こうした十九世紀的資本主義とはかなり違ったものになります。
・その特徴は、第一には法人組織を持った大企業が出現し、それが多くの産業を支配するに至ったことです。

・第二には、国家が様々な活動領域を取り込んで経済全体に占めるその比重を増大させたことです。

(2)独占資本主義
・大企業および独占的産業組織の分析は、主流である古典派・新古典派の経済学者たちよりも、ドイツ歴史学派やマルクス主義の経済学者たちによって熱心に取り上げられたテーマでした。

・ドイツやアメリカの経済学者たちは、カルテル、トラストなどによる当時の独占形成運動を分析し、また巨大化した銀行が産業金融にも乗り出していることを指摘しましした。
→ドイツの経済学者の一般的態度は、独占組織を経済発展の高度化の帰結として容認し、その社会的規制を考えるというものでしたが、農民や小営業者たちを中心とした反独占運動が存在したアメリカでは、経済学者の態度は独占に対してより批判的でした。

・マルクス主義者の見方に従えば、こうした競争的資本主義から独占的資本主義への発展は、社会的生産の意識的統制という社会主義へ進んでいく歴史過程の一部なのです。
→第二次世界大戦後は、こうした見方を一歩進めて、「国家独占資本主義」が成立したという議論が生まれました。
→国家独占資本主義は現状のままでは少数独占資本家に奉仕する敵対的機構であるが、経済過程を制御する国家的手段を提供することによって社会主義の直接の入口になり得るとみなされたわけです。

(3)不完全競争
・アルフレッド・マーシャルは工業にはしばしば見られる規模に関する収穫逓増(費用逓減といっても構いません)のケースは、限界主義の経済学者たちの原子的な競争市場という暗黙の前提を掘り崩しかねないことに気づきました。
→このようなケースでは、個々の企業を一定規模の生産にとどまらせる力が存在しないので、先発企業の生産拡大が最後には独占状態に行き着くことになるからです。

・マーシャルは収穫逓増にもかかわらず競争状態が維持される根拠として二つのことを考えました。
・一つは収穫逓増が存在するのは、産業の集積のような外部経済によるもので、個々の企業としては最適な生産規模が存在するという考えです。

・いま一つは、販路の拡大には困難がともない、価格の大幅な引き下げや販売費用の豆乳を必要とし、そのために生産規模の拡大にブレーキがかかるという考えです。

・収穫逓増と競争の存在を両立させようとしたマーシャルの二つの考案のうち、外部経済の方はピエロ・スラッファによってその便宜的な性格を批判され、経済学者の注意は、後者の方につながる不完全競争論の方に向かいました。
→ジョーン・ロビンソンは1933年の「不完全競争の経済学」で、従来は完全競争を前提として価格に対して無限に弾力的と想定して水平に書かれていた個別企業にとっての需要曲線を右下がりに描きました。
→このとき、企業の生産規模は平均費用曲線と需要曲線が接するところにおちつき、企業は過剰能力をもっていることになります。

(4)価格の硬直性
・ジョーン・ロビンソンの不完全競争論はマーシャルの費用分析の延長線にあるものとも考えられますが、同じころにアメリカのE・H・チェバリンは、需要曲線を産業全体と個別企業とに分け、企業間に協調が成立するか、競争が起きるかで結果が異なってくることを説明しました。
→これを一歩進めたものが、ホール=ヒッチとP・スウィージーによって提出された屈折需要曲線の理論です


・限界原理に代わる価格理論として提出されているのは、企業は主要費用に一定の上乗せを行って価格を設定するというマーク・アップ原理です。
→マークアップの比率はその企業の市場支配力の強さを示すものですが、寡占的な市場の解明は、非価格的競争の重要さを示しました。

(5)外部性と公共財
・マーシャルとピグーに代表されるケンブリッジ学はの経済学には、国家の経済への介入の是非を判断する基準を提供する厚生経済学としての側面があります。

・先に言及した、外部性という概念も、厚生経済学にとって重要な概念です。
→というのは、経済主体が市場で対価を払って相互に取引する以外のルートで経済主体感に便益や損失がうまれているとすれば、個々の企業にとっての私的費用と社会的費用の間に乖離が生じ、市場を通じた費用の最適化は達成されないからです。
→典型的な例は待機や水の汚染によって生じる公害です。

・国防・治安・道路交通など伝統的に国家の管掌する事項とされてきたものは、この外部性の概念を発展させた「公共財」の供給として説明されます。
→これらのサービスは個々の経済主体が排他的に享受し得る性質のものではありませんから、その費用を市場によって個々の享受者に支払わせることができません。
→「社会資本」や「インフラストラクチャ」と呼ばれていくものも、「公共財」を供給するための公的に維持される社会機構です。

・何をどの水準まで 公共財として公的に供給するかは、その社会のコンセンサスに基づくものだと言わなければならないでしょう。

(6)社会科と社会資本主義経済論争
・第一次世界大戦は勃発時には数ヶ月で終わるものと考えられていましたが、交戦国のあらゆる人的・経済的資源を動員した総力戦となりました。
→この総力戦によって地位を向上させたのは、兵卒を提供し軍事生産を支えた労働者階級です。

・こうした政治状況の変化は、ドイツの戦時経済の効率性に魅了された計画経済論者の出現と相まって、生産手段の「社会化」を実施して戦争経済から社会主義経済に一足飛びに進む願望を社会主義者の間に生み出しました。

・1920-30年代の社会主義経済計算論争は、第一次世界大戦終結のあとのこうした社会化論争を背景としています。
→発端は自由主義者のルートヴィッヒ・ミーゼスが資本財の市場が存在しない社会主義経済では、合理的な経済計算が不可能であると論じたことです。
→経済の合理性を市場での合理性に還元するミーゼスの議論に対して、種々の立場からの反論がなされましたが、オスカー・ランゲの反論がもっとも有名です。

・ランゲは、価格には市場経済における所有権譲渡の対価だけでなく、資源配分にあっての評価係数という二重の意味があるとして、計画経済は後者の意味での価格を活用して合理的な経済運営を行うことができると論じました。

・エンリコ・バローネは、ワルラスのオークショニア(市場のせり人)の役割を計画当局にあてはめ「計画当局はその提示した計算価格に対して生産者と消費者が表明する諸財の需要量と供給量を考慮して需給がバランスするかどうかを基準に改訂を行う」と考えました。
→論争の中では、こうした均衡的な価格体系の模索に要する時間も問題とされましたが、ランゲは行動のルールを与えられた企業のマネージャーに企業の主体的近郊の維持を任せうならば、模索に要する時間は市場経済に劣る筈はないと答えました。

・ランゲが示した構想に対する自由主義者たちの批判は、企業に個人的な利害関係をもたないマネジャーたちが、その職務を誠実に遂行するインセンティブがあるとは思えないというものでした。

(7)ソ連の工業化
・イギリスのマルクス経済学者のモーリス・ドッブは、この社会主義経済論争がワルラス的な均衡論的経済学をベースに行われたことに不満を表明しています。
→彼によれば計画経済の利点は、長期の見通しに基づいて投資を計画的に行うことができる点にあるのであって、そのためには投資の量だけでなく投資の性質や方向を集権的に計画化することが必要でした。

・ドッブの念頭にあったのは1928年に五カ年計画を立てて、野心的な工業化に乗り出したソ連の社会主義でした。

・ボリシェヴィキの経済学者たちは、革命直後の戦時共産主義が社会主義に直結し得ないことを悟って市場経済の復活(ネップ)を受け入れましたが、これを中休みとみなし、次の段階でのソ連の工業化のための方策をめぐって論争しました。
→ひとつの極端な立場は、農業剰余を工業建設のために動員するという社会主義的原始蓄積論です。

・ソ連における計画経済の実験は、中央計画局における資財バランス表の作成や効率的な投資案の作成など様々な経験を経済学者にもたらしました。
→日中戦争時の日本の革新官僚たちは、ソ連の計画経済のアイディアを取り入れて産業団体を組織し、戦時経済を支える大枠としての物動計画をまとめいようとしました。これが戦後日本の官民協調型の産業政策の原型であったという指摘もあります。

(8)官僚制と経営者革命
・19正規の個人主義と対比すると、20世紀は組織の時代として特徴づけられるかもしれません。

・労働者の労働条件は、個々人ごとの交渉によってではなく、労働組合の団体交渉によって確定します。世論はマスメディアの影響によって形成され、政治的見解は全国的な大規模組織をもつ政党によって集約されます。

・組織によって動かされる経済を正面から見ようとすれば、通常は経済学の枠に入らない、社会学的な領域に踏み込まなければならない。
→組織の動き方とその中での人間のあり方を説明する理論としてまず提出されたのは、マックス・ウェーバーの官僚制論でしょう。
→ウェーバーは、近代国家の行政が、専門知識を備えた官吏によって、職務と上下関係が明確に規定された組織のもとで、情実抜きに法規に頼って形式合理的に遂行されていることに注目しました。

・A・A・バーリとG・C・ミーンズは1932年の「近代株式会社と私有財産」でアメリカの大企業の調査結果から、所有と経営の分離した経営者支配型の企業が多数を占めると結論しました。
・また、バーナムは現代の社会は資本主義であれ社会主義であれ、所有ではなく組織を支配した経営者によって支配されているという経営者革命論を打ち出しました。

・シュンペーターは、資本家と異なって所有によって支えられているわけではない企業者の職能は、技術革新にせよ、販売組織・経営組織の革新にせよ、組織の職務の中に取り込まれることができると論じました。

(9)企業組織による環境の内部化
・労働者は、本来は、経営者のように利潤を分与されることも、職員のように昇進の対象になることもない、企業組織の底辺に位置していました。
→しかし、企業の業績が労働者の技能取得と動機付けに大きく左右されるようになってくると、労働者をもはや機械のようにみなすことはできません。

・企業の組織としての発展は、製品の市場や、原材料・中完成品・部品の市場をもその内部に取り込んでいく傾向があります。
→しかしそれは、全面的な独占統合の携帯を取るとは限りません。むしろ、市場と組織の提供する競争と協力といううま味を最大限に活用するような柔軟な組織形態が目指されています。

・ガルブレイスは「新産業国家」という言葉をはやらせましたが、政府は産業のために教育機構を整備するだけでなく、科学研究・技術開発を国家資金で支え、日本の通産省のように各産業ごとの、あるいは産業相互の調整を手がけています。

(10)内部組織の経済学
・なぜ企業組織がうまれるのかという問いを立てたのは、ロナルド・コースの「企業の本質」という論文でした。
→かれは市場を利用するためには取引費用がともない、これを節約するために生産要素を固定的に維持した企業が生まれると論じました。取引費用というのは情報の不足や偏りを処理する費用です。
→情報と取引費用は、市場と組織を同等化して比較する視点を提供するものです。

・組織にはいま一つ構成員の動機付けという難問があります。
→企業組織の中では従業者に支払われる報酬と彼の作業の生産性には厳密な太陽はありません。
→したがって厳密な監視を行わない限り、現実の生産性は理論的に可能な生産性の限界以下にとどまるでしょう。しかし、監視もまたコストなしには行えないのです。

・費用概念の拡張による企業の経済学のいま一つの側面をしめすものは、企業組織は生産の効率性よりも支配と蓄積のためにうまれたというラディカル・エコノミストたちの見方でしょう。

大きな流れ
20世紀の経済は、大企業の出現と国家活動領域の拡大によって19世紀のそれとは違った展開を見せた。
企業組織に関しては、独占企業や不完全競争の研究がなされ、経済の外部性が指摘された。
一方国家活動に関しては、ランゲやバローネ、ドップによって計画経済の合理性や可能性が模索された。
組織の研究を行うには、社会学的な視点も必要であるが、組織の中の人間に関する研究はまず、ウェーバーによって提出され、彼の官僚制に関する考察は、官僚制と経営組織のの類似性から企業組織の研究に発展していく。

論点
外部性や不完全競争に関しては、経済学の標準的なテキストにもありますのでとくに触れる必要はないかとおもいます。
計画経済に関して論点を一つ取り上げます。
ドップに対する反論
本書では計画経済に関するモーリス・ドップの見解に対する反論が取り上げられていません。
ドップの主張は
「ランゲやバローネによる主張は、均衡を人工的に達成しようとする視点であり計画経済の利点はそのようなところにはない。長期的な見通しに基づいて投資を計画的に行えることこそ計画経済の利点である」
というまとめることができるでしょう。
市場に頼っていては長期的な視点が抜け落ちてしまうということでしょうか。さて、この主張に対してどのような反論ができうるでしょうか。計画経済においても、理想的な投資は行えない、あるいはもっと別の問題点が指摘できるでしょうか。

posted by きょうよくん at 11:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。