2013年01月28日

経済思想 八木紀一郎(8)

八木紀一郎の「経済思想」、第7章 経済変動の探求-貨幣的経済理論とケインズをまとめていきます。
前回は経済思想学上大変重要な限界革命の話でした。今回はケインズという著名な経済学者の話が中心となります。
本書も残るところこれを含めあと3章でおわりとなります。過去とのつながりもだいぶ出てきますので、過去の記事の復習もしておくとよいでしょう。

この本に関するほかの記事は経済思想-八木紀一郎のタグを参照ください。
*もちろん、内容の全てを紹介するわけではありません。本を持っていないかたは多少の前提知識を要求する書き方をいたしますが、ご了承ください。

経済学入門シリーズ 経済思想<第2版> (日経文庫)

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概要
(1)貨幣ヴェール観
・近代の経済思想は貨幣経済の社会への浸透と結びついて成立し、貨幣問題は重商主義時代の経済思想の理論的焦点に位置していました。
→しかし、経済学者の関心が 生産的資本の蓄積に向けられるようになると、貨幣が経済にもたらす影響は名目的なものに過ぎないという考えが支配的になります。

・貨幣商品である金銀の価値について労働価値説、あるいは生産費説を適用した古典派は経済学理論を完全に非貨幣化することに成功したかのように見えました。
→しかし古典派のこうした見方を脅かすものが一つありました。それは銀行制度とともに発展してきた信用貨幣です。

・貨幣資本は実物資本(機械設備など)の影と考えられていました。
→しかしそれは、貸し付けられる貨幣資本が資本家階級内部の既存の有給貨幣資本に限定されていて、銀行はその仲介者弟子かないような場合を想定するものです。

(2)ヴィクセルの累積過程論
・19世紀末になると経済学者は純粋な信用経済を想定した議論をはじめました。
→スウェーデンの経済学者クヌート・ヴィクセルはワルラスの一般均衡理論にたった貨幣論とベーム=バヴェルクの資本理論を総合し、さらに信用経済を考慮して経済の貨幣的側面と実体的側面の関連にその考察を進めました。

・一国の経済でもし実物資本を直接に貸借しあることが行われているとすれば、そのときに成立する利子率は実物資本の利潤率を反映したものでしょう。
→ヴィクセルはこれを実物利子率(自然利子率)と呼びます。

・銀行組織によって資金の貸出が行われる際の利子率(貨幣利子率)が実物利子率に等しくない場合にはどういうことが起こるでしょうか。

・貨幣利子率が実物利子率より低い場合は商品価格の水準の一般的上昇が生じます。逆の場合は。物価の下落です。
→こうした物価変動は企業家の利得期待に跳ね返りますから、銀行が貸出利子率に固執する限り、変動の方向は累積的です。

・ヴィクセルは景気の上昇過程や後退過程にはこうした累積的過程がみられると考えました。
→その背後には、銀行組織が信用創造能力をもち、実体経済の不均衡からある程度独立してその貸出政策を維持し得るという想定があります。銀行は、物価の変動を引き起こさせる「正常利子率」を容易に知りえないといってもよいかもしれません。

・企業家の投資が銀行の信用創造によって行われる場合、強制貯蓄という現象が起きます。
→それは、所得主体が自発的に消費を断念し貯蓄に回す分量を超えた割合の生産物が銀行が企業家に提供した投資資金によって貯蓄に回るという現象です。

・リードヴィッヒ・ミーゼスとフリードリッヒ・ハイエクは強制貯蓄による資本貯蓄は不可避的に恐慌を招くと論じました。
・ヴィクセルからミーゼス、ハイエクに至る貨幣的景気編理論が、経済が完全雇用状態にあることを想定していることに注意しておいてください。

(3)静態と動態
・経済発展の動態的性格を強調したのは、ヨーゼフ・シュンペーターの「経済発展の理論」です。
→シュンペーターは、いままでの経済学は変化のない静態的な経済循環を基礎にした理論的な枠組みの中にとどまっていると批判しました。

・シュンペーターが気づいたことは、こうした静態的循環のもとでは、資本主義という経済ヴィ上んに通常結び付けられている概念がほとんど無意味になるということでした。
→そこでは貨幣も資本も経済循環の一曲面での名目的存在にすぎず、費用を超える常用がありませんから利潤は存在せず、また資本の貸し借りもありませんから利子も存在しません。

(4)革新者としての企業者
・シュンペーターによれば、経済のなかには、少数ながらも大勢の抵抗にさからっても、新機軸を追求しようとする動態的経済主体(企業者)が存在します。
→資本主義的利潤は既存の静態的価値評価の枠を超えて越した革新のもとで生まれる価値差額から生じるものです。

・資本は、革新的企業者が原材料や労働・土地の生産用役を既存の生産活動から奪取し、新機軸の遂行に向けて結合しなおすための手段です。
→貨幣に関しても、新結合遂行のための購買力は、銀行組織の信用創造によって供給され、銀行が企業者の得る利潤の一部をその代償として徴収したものが利子なのです。

・シュンペーターにとっては企業者機能が市場価値としての利潤を生み出す本源的機能であって資本家は企業者に資本を提供し危険負担を行うという補助機能を果たすにとどまるものでした。銀行が企業家に供与した信用も、企業家が確信にせいこうして 返済すれば消失します。

・シュンペーターの学説は、資本主義をその革新活動の側面から切り取って理論化したものといってよいでしょう。
→そこでは、資本家や労働者を含む経済の全体的構図はかけています。

(5)ケインズの貨幣経済論
・青年時代のケインズが主観主義的確信を重視した確率論の構築に心血を注いだのも、ブルームズベリー的な精神を表現するもんでしょう。

・ケインズの見るところでは、自らは産業に関与しない投資家階級という新しい社会的な利害勢力が、先進国社会に生まれていました。

・ケインズは資本主義の本質を金銭欲に駆られたマネー・ゲームと見ますが、それは戦争よりは格段に文明的なゲームだとシニカルにこれを肯定していました。

・理論的に問題となるのは、投資家とほかの二階級との利害関係のもとでの貨幣経済の作用です。
→貨幣数量説は、貨幣が基本的に他財を入手するための交換手段でしかないことを想定していますが、保有する資産価値を維持しようとする投資家にとっては貨幣の価値保蔵手段としての機能が重要となります。

・金融資産の価値をきていするものの第一は利子ですから、これは貨幣に対する投機的需要が主要な役割を果たす貨幣市場で利子が決定されるという流動性選好利子説に行き着きます。
→言い換えれば投機的需要が存在する貨幣市場を貯蓄と投資を調整する貸付資金市場とみなすことは不可能になります。

(6)投資・貯蓄による所得の決定
・ケインズは、正常所得からの貯蓄を上回る投資が生産費を上回る物価をつくりだし、その差額が「予想外の利潤」となると論じました。
→しかし、投資の拡大がすべて物価上昇に吸収され、貯蓄を上回る投資が「予想外の利潤」を生むというのは、ケインズ自身が認めたように「産出量を一定と仮定した上での瞬間描写」なのです。
→調整過程を考えるならば、追加的な投資が所得を生み、消費のために支出されたその所得の一部がさらに所得を生むという乗数的な所得増加の過程が現れるでしょう。

・ケインズの理論の理解の要点は、投資Iが所得Yから独立に与えられているのに対して、貯蓄Sは所得Yno関数であるということです。つまりS(Y)=Y-C(Y)ですから、S(Y)=I。

(7)セイ法則批判
・ケインズの貢献はしばしば、不完全雇用近郊の存在を示したことだと言われますが、ケインズ自身はそれを古典派の基礎をなすセイ法則の批判として表現しました。
→この法則は、売買は本来みな商品どうしの交換にほかならないから、購買力は生産それ自体からうまれるとして、過剰生産はありえないとした学説です。

・ケインズは完全雇用が実現されない根拠を投機的貨幣需要が存在するために利子率の低下が妨げられることに求めました。

・ケインズは一時的な不況対策としては赤字財政による公共事業を主張しましたが、中長期的には、公的な情報提供などによって投資家を脅かす危険を減殺しながら投資家が限界と考える利子率の水準を引き下げていくべきだと考えました。

・論争になった一つの問題は、失業があるならば(貨幣)賃金を引き下げることによって生産拡大することができないのかという問題です。
→ケインズの兄弟子であったピグーは貨幣賃金の定価のもたらす物価水準の下落は人々の保有する貨幣残高の実質価値を高めるので、消費の増大につながると反論しました。これはピグー効果、あるいは実質残高効果と呼ばれのちにケインズ理論を新古典派に再統合する際のよりどころとなりました。

(8)ケインズの修正資本主義論
・マネー・ゲームのバブルにうち興じるのは人間の性情として容認するとしても、このバブルに産業と労働までが翻弄されることは許容できないというのが彼の態度でした。

・ケインズが自由党を推薦したのは、かつての自由放任主義・自由貿易主義の政策ではなく、投資の社会化と所得分配の是正によって「社会的構成および社会的安定のために経済力の統制指導を計画的に意図する体制」に移行することでした。

・ケインズ的修正資本主義のもとでの問題は、政府が手にしている介入権限を誰がどのように運用するかということです。
→ケインズのこの政策担当者の知性への信頼は、「ハーヴェイ・ロードの前提」と呼ばれています。

(9)ケインズ理論の動学化
・ケインズは元来、経済の変動機構の解明をもとめてその理論的探求に入ったのですが「一般理論」は経済の変動過程を捨象した不完全雇用均衡を論じた短期の理論になりました。
・興味深いのは、ロイ・ハロッドやジョーン・ロビンソンを中心にして取り組まれたイギリス・ケインジアンの探求のなかで、古典派やマルクスがとりあげた政治経済学的な諸問題が再浮上したことです。

・ロイ・ハロッドは投資が今期の有効需要となる効果と来季の生産能力を増大させる効果の二面をもつことに注目して、経済成長が安定的に進行するかどうかを検討しました。
→彼は、選出を増加させるために必要とされる資本額には一定の割合(必要資本係数)があるとして、一定の貯蓄性向のもとで資本設備の完全利用を実現する成長率を保証成長率と呼びました。

・保証成長率にしたがった成長軌道は不安定で、現実の成長がいったんこれからずれるならばその乖離は累積的です。

・保証成長率は資本設備の完全利用を基準にした成長率ですが、ハロッドはさらに、労働力の成長率のような自然的要因によって規定される成長率(自然成長率)をその考察のなかに加えています。
→失業は、現実の成長率が自然成長率に達さない場合に生み出されます。

・時間をいれた蓄積過程においては、投資にたいしてそれに等しい貯蓄を生み出すプロセスは、価格水準の変動を通じた所得分配の変化です。

・ハロッドもロビンソンも資本主義的成長は不安定であることを論争しようとしましたが、戦後の新古典派の経済学者は資本と労働のスムーズな代替を認めれば安定的な成長が可能になると論じました。
→問題は資本を可塑的なものと考えて集計的な生産関数の中に労働とともに、入れ込むことができるかということです。

概要
経済学者の関心が資本蓄積に向けられるようになると、貨幣が経済におよぼす影響は名目的なものに過ぎないと考えられた。そんな中、ヴィクセルは経済の貨幣的側面と実態的側面の関連の考察をおこなった。
また、シュンペーターはマルクス的ヴィジョンに影響されて、経済発展の動態的性格を強調した。そこでは、革新者としての企業者に焦点があてたれていた。
ケインズもまた経済の変動機構の解明を求めたが、「一般理論」で示されたのは経済の変動過程を捨象した不完全雇用均衡の短期の理論にとどまっていた。
ケインズ理論の動学化に取り組んだのは、ロイ・ハロッドでした。そこで彼は、保証成長率と現実の成長率との関係を明らかにした。

論点
今回の部分をこの本だけで理解するのはなかなか難しいですので、いくつか参考になるサイトを紹介いたします。
「経済思想の歴史」様のハイエクの頁http://cruel.org/econthought/profiles/hayek.html
「平井俊顕 (ひらい・としあきToshiaki Hirai)ブログ」様のこちらのページ
それにPDFですが、古賀勝次郎さんの「ハイエク社会理論体系の研究(五)
今回は以下の用語の理解を深めましょう。標準的な解説を与えるのでその意味していることを考えてみてください。
強制貯蓄
強制貯蓄とは銀行の信用創造によって新投資が行なわれて生じる現象のことであり,新投資が生産手段の生産部門に片寄って行なわれるため生産手段が消費財生産行程から生産手段生産行程へと移行させられ,生産の迂固化が行なわれるが,その結果消費財の価格が騰貴しいずれ信用の累積的な拡張が停止して迂回生産が短縮化されることになるとされている。
信用創造
信用創造とは、銀行が預金を集め、その資金を企業や個人に貸出をし、再度、銀行が預金を集めて、その資金を企業や個人に貸出をすることを繰り返すことにより、マネーサプライ(通貨供給量)が増加していく事で、信用創造は、信用創造の基となる本源的預金から派生的預金を生み出しています。
有効需要
現実に存在する財に対する需要。具体的には、消費需要、投資需要、政府支出、純輸出からなる。
保証成長率
財市場を常に均衡させる経済成長率のことで、保証成長率は資本ストックの成長率に等しくなります。ハロッドによれば、資本蓄積率の面から画される成長の上限が保証成長率、効率単位で計った労働力の成長率から画される成長の上限が自然成長率、と呼ばれます。自然成長率と保証成長率が一致していれば、労働市場における完全雇用と財市場における需給均衡が同時に達成されながら、経済が成長していることになります。これを経済は均斉成長(balanced growth)の状態にあるといいます。ソロー=スワン・モデルによれば、価格調整メカニズムによって現実の成長率は財市場を常に均衡させる保証成長率に等しくなり、長期的には保証成長率と自然成長率が一致するように調整されることになります。
流動性選好利子説
金融資産の一部を貨幣で保有しようとする人々の欲求(流動性選好)と貨幣供給量によって利子率が決まるとする説で、J.M.ケインズによって唱えられたのが始まり。貨幣に対する需要には、@取引動機(日常の経済取引のために保有)、A予備的動機(不意の支出に備えて保有)、B投機的動機(流動性が低い資産の保有による損失を防ぐために保有)、の3つがあり、貸付資金需要説が、資金のフロー取引から説明しているのに対し、流動性選好説は、ストック取引によって決まるという見方をしている。

第七章に関しては以上です。
posted by きょうよくん at 13:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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